親子承継失敗の共通項

 心と技の準備不足が
人生を懸けた事業を滅ぼす

店の未来は後継者次第。遠いようで近い現実だ。信じたくないだろうが、引退する日のカウントダウンはもう始まっている。親から子への事業承継をいかに成功させるかーー多くの失敗事例にも向き合ってきた筆者が、失敗から学ぶ成功の条件を提言する。

シモナカ経営事務所 下中ノボル




事例1 理念の継承なき店は滅ぶ

 ある地方スーパーの社長は経営理念、社是・社訓、中期計画などを重視し、小さい店ながらも人気と信望を集める経営をしていた。社長が67歳になる時、他社に勤務していた息子を呼び戻して専務に据え、2年後社長に就任させた。

 継いだ息子は、経営理念など絵空事とばかりに日々の実戦を重視し、先代から受け継いだ理念を軽く見る経営を行った。その結果、お客の店離れが起こり、競争激化で経営は悪化していった。「商人魂」「誠実さ」を軽視する店の客離れは早かった。

 不運にも、その最中に父親が亡くなり、親が数十年かけて築き上げた店はあっけなく破綻。経営の技術や理念など「教えず、学ばず」という店の継承は瓦解した。

 継承にもっと早く取り組むべきであり、経営理念の継承を重視すべきだった。「事業承継準備に時期尚早はなし」なのだ。


経営理念の伝授は早めに行え。
継承準備は50歳を過ぎたらすぐに着手すべし。




事例2 人生も経営も「無常」と知れ

 「贈答品のAZ屋」の社長が急死したのは、出張先のホテルでのことだった。

 これまで資産管理、銀行取引、販売先・仕入先管理などすべて社長が行っており、営業担当の息子と経理担当の社長夫人が情報を寄せ集めて経営の現状把握に努めた。すると、予想以上に借金があり、経営は厳しい状態にあった。建物、底地を含め土地はすべて借金の担保になっており、今までの4割増を売り上げないと借金が返せないことが分かった。

 息子は「この財務状況では継ぐ自信がない」と、継承を辞退。銀行が応援すると言っても固辞し、親族と銀行の協議の末、廃業が決まった。

 その後、社長は生前、再建策を顧問計理士(現・公認会計士)に依頼していたことが分かったが、すでに手遅れだった。


経営に「無常観」は必須。早くから経営状態を息子に伝えて再建計画を進めていれば、状況は変わっていたかもと思うが、時すでに遅し。




事例3 中期計画と組織づくりから

 小都市のレディスショップの女性店主(当時65歳)は、都会の会社に勤務する息子を呼び戻し「社長を譲るから組織をつくってくれ」と命じた。実は親子共に組織的発想が苦手だった。人聞を数字や理屈で統率・評価するには、どうすればよいのかが分かっていなかった。

 息子は親の意向を無視しようとしたが、「数字と組織軽視の経営を続けるなら社長は外す」と親から言われた。理由は、スタッフの給料を業績給にしないと支払えない状況になっていたからだ。

 親の思いの分からぬ息子は店を辞めた。親は自分一代で終わっていいと覚悟した。


小規模でも業務分担、組織、評価基準などは必要。
ただし、中長期計画の中で考えることで、息子に丸投げは無理。
親も経営管理の基本を学び直すことだ。




親族への承継失敗 5つの共通項

 これまで紹介した3事例のほかにも、事業承継で失敗する共通項がある。それをここに挙げたい。

 @相当な経営能力がない人の承継
  例えば、良好な人間関係の構築が苦手な人やリーダーシップのない人は、
  能力不足のため承継は失敗する。

 A必要な次期経営者像を詰めないままの承継候補の決定
  身近な人が推薦しない人材はダメ。表裏を知っている人の意見は重要である。

 B気力、意欲、意志のない人への承継
  身内だからと事金木承継させるほど、経営は甘くない。

 C「親パカの期待」のみでの承継
  店は社会生活のインフラである。身勝手な承継は多くの関係者を不幸にする。
  候補者を過大評価も過小評価もしてはならない。

 D現経営者の準備不足
  組織・財務・人事・計数などの「管理」や承継準備がなされていなければ、
  成功の確率は低くなる。


家族2、3人規模は別として、一人でも他人の従業員がいる店は
経営管理の感覚なくして承継の成功はない。




後継者選びと育成 7つのプロセス

 成功は、失敗の反対側にある。だが、人生を野球に例えて言うなら、終盤(後継者にとっては序盤)における救援登板では、失敗は絶対に許されない。救援投手の失敗(承継の失敗)は再起不能を招くからである。

 そこで、良き救援投手(後継者)に育てる 7つのプロセスを次に挙げる。今からでも遅くはない。

 @経営者(親)が50歳の時、10〜15年後に引退することを家族に予告。併せて後継者(親族)の覚悟を確認する。同時に業種・業態、立地などの再検証を行う。

 A経営者が55歳ころ、数年後に引退することを再度予告。後継者に経営実務を経験させ、経営者試験を行う。この試験に不合格の場合は、経営者は廃業する覚悟で臨むことだ。

 B後継者に承継を拒否されないために、経営者は50歳を過ぎたころから健全経営化ける努める。小規模な店でも利益が出ることを理解させる。

 C後継者に「経営革新計画」を作らせ、認証取得に取り組ませる(役所に息子の教育と経営者試験をしてもらう絶好のチャンス)。

 D後継者に銀行、仕入先、納品先などへ、手助けせずに取引が成功するまで通わせる。その結果、自分の力の限界を自覚させる。

 E後継者に自分が今後なすべきことを、他人から学ばせる。親、身内の言うことは聞きたくない。親は最大のライバル。短期でも他店のメシを食わせる研修が大切なプロセスとなる。

 F後継者に、わが町、わが商店街の将来を語らせる。視野が狭くては先がない。


まず継承する立場に立ってみる。
商いの世界では相手の立場に立つことが成功の基本である。





筆者プロフィール

下中 ノボル

青年期より「商業界理念・ゼミ精神」を学ぶ。地域同好会の研修会にも参加。地域商業・商店の支援にかかわり、中小店の協業化の支援も行う。さらに輝きのある小店・商店主にエールを送り、一店でも多く、世の見本になる店が増えるように紹介記事などを執筆している。












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